坂東, 慶太. 「オープンアクセス×ソーシャルメディア」時代の研究評価指数altmetricsの可能性. 2013, 月刊DRF, 2013年10月号, No.45, p.1-5. #altmetrics #OAWeek


このエントリおよびfigshareへアップロードした原稿は、学術情報流通の現在と未来をかんがえる雑誌「月刊DRF(Digital Repository Federation Monthly)」2013年10月号/No.45に寄稿させて頂いた記事をセルフアーカイビングしたものです。執筆の機会と原稿へのフィードバックを下さった岡山大学の大園さまをはじめとするDRFのみなさまに改めてお礼申し上げます。ありがとうございました。 🙂

1. はじめに

10月と云えば「OpenAccessWeek(以下,OAWeek)」ですね!世界中がイメージカラーのオレンジに染まる,そんな2013年のOAWeekテーマは「Redefining Impact(インパクトの再定義)」.
このテーマを受け,SPARC Japanは,altmetricsを提唱する第一人者Jason Priem(以下,Jason)をゲストスピーカーに招くOAWeekセミナー「オープンアクセス時代の研究成果のインパクトを再定義する:再利用とAltmetricsの現在」を開催すると発表しました.また,OAWeek翌週に開催される第15回 図書館総合展では,DRF主催フォーラム「DRF10:躍動するオープンアクセス」にて「Altmetircs(オルトメトリクス) 新しい論文単位利用統計の可能性」と題したセッションが開催予定,と10月はaltmetricsが熱い!
そこで本稿では,altmetricsの概要と最新動向を紹介し,「オープンアクセス×ソーシャルメディア」時代の研究評価指数altmetricsに,機関リポジトリ(Institutional Repository/以下,IR)担当者としてどう対応すべきかを考察します.

2. altmetricsとは

altmetricsとは,研究論文は勿論のこと,その研究過程で生み出されたデータセット・開発コード・スライドなど様々な研究成果を対象として,ソーシャルメディアやブログ・ウィキペディアといったオンラインサービス上でどれだけのインパクトがあったかをリアルタイムに計測する概念またはサービスの総称です.[1][2][3] ノースカロライナ大学チャペルヒル校で図書館学を専攻しているJasonを中心に概念が定義されたaltmetrics(「alternative」と「metrics」を組み合わせた造語)は,2010年10月に公開されてから僅か3年しか経っていないにもかかわらず,欧米の学術出版社・研究機関・研究者を中心に急速に認識と普及が広まってきています.

なぜaltmetricsが受け入れられているのか?

様々な要因が考えられる中で,重要な要素のひとつに「元々はジャーナルの影響力を計る指標として考案されたインパクトファクター(Impact Factor/以下,IF)が本来の目的から外れて論文個々の評価や研究業績評価に濫用される傾向にある」という問題意識が根底にあります.IFは「学術雑誌」の評価指標であって「学術論文」を評価するためのものではない.そこで,論文レベルの客観的評価指標を求める要請が高まり,ウェブ2.0時代の要請に応じて,これまでの評価指標を補完する目的で提唱されたのがaltmetricsだったのです.
2012年12月にサンフランシスコで開催された米国細胞生物学会の年次会合において,Scienceなどの有力誌を含む細胞生物学分野のジャーナル編集長らの協議によって採択されたサンフランシスコ研究評価宣言(San Francisco Declaration on Research Assessment/以下,DORA/DRF有志による日本語訳はこちら)は,基本的には,研究評価に関してジャーナルレベルのメトリクスの段階的な廃止・論文レベルのメトリクスの採用を勧めるといった内容であり,altmetrics普及の追い風にもなっています.

Altmetricsサービスの紹介と,学術出版社の導入事例

この数年でaltmetricsに関する様々なサービスが登場しています.本節では,altmetricsを理解する上で必ず押さえておきたい2大altmetricsサービスと,学術出版社におけるaltmetrics導入事例を紹介します.

ImpactStory


Jasonらが開発したオープンソースのサービスで,開発当初(2011年〜)はTotal-Impactという名称でしたが,2012年4月にアルフレッド・P・スローン財団(以下,スローン財団)から助成を受け,2012年9月からImpactStoryと名称を変えてリニューアルしたaltmetricsを代表するサービスです(2013年6月にはスローン財団から500,000ドルの追加助成が決定).
2013年6月にサービス開始した生涯投稿料モデルのオープンアクセス誌PeerJは,論文のメトリクス表示にImpactStoryを導入しています.

Altmetric

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ネイチャー・パブリッシング・グループの姉妹会社であるデジタル・サイエンスが提供する商用サービスAltmetricは,nature.comSpringerOpenBioMed CentralWileyなど多数のジャーナル上で,通称Altmetricドーナッツと呼ばれる論文単位のメトリクスを提供しています.どれだけオンライン上で言及されたか(Twitterは水色・Facebookは紺色・ブログは黄色など)に加え,Mendeley(赤色)やCiteULike(薄水色)などにどれだけブックマークされたか等をカラフルな色でAltmetricドーナッツを彩り,その中央にAltmetricスコアが表示されます.カラフルな Altmetricドーナッツは今やaltmetricsの代名詞になりつつあります.

ImpactStoryとAltmetricの共通点・相違点

オープンソースサービス・商用サービスであるという違いがあるImpactStoryとAltmetricに共通する重要なポイントを挙げるならば,研究成果のインパクトを追跡する際,DOI(Digital Object Identifier)をターゲットとしていることでしょう.PMID(PubMed Unique Identifier)や特定URL(Slideshare.netなど)にも対応していますが,DOIが付与されるオープンアクセス誌や機関リポジトリは勿論のこと,オープンデータリポジトリfigshareといったDOI対応サービスはaltmetricsサービスにとって重要な追跡対象であり,DOIの存在価値が改めて高まってきました.
両者は指標を数値化・可視化させるという共通点はあるものの,Altmetricは指標を数値(Altmetricスコア)で表すのに対し,ImpactStoryは二段階レベル表示(例えば,highly savedとsaved)するといった様に,独自の表現方法を採用しているという相違点も見い出すことが出来ます.

PLoS Article-Level Metrics

PLoS(Public Library of Science)は,altmetricsの概念が公開される以前の2009年から論文個々(Article-Level)の研究評価指数(Metrics)を計量化・可視化するPLoS ALM(Article-Level Metricsの略語)プロジェクトに取り組んできています.競合他社は前述の通りaltmetricsサービス導入に留まりますが,PLoSはaltmetricsに加え,伝統的な研究評価指数も集計するという独自開発路線を突き進んでいます.そのPLoS,昨年に引き続き今年もALMワークショップを開催予定(10月10〜12日,サンフランシスコ).altmetricsに関わる関係者が一同に会する注目のイベント故,開催期間中はTwitterで#ALM13をフォローして最新動向をチェックすることをお勧めします.

その他,研究機関向けaltmetricsサービスとしてはPlum AnalyticsMendeley Institutional Editionなどが導入実績を増やしてきており,出版社・研究機関にとって今や altmetrics はバズワード化しつつあります.
この様にaltmetricsの普及が広がる中,米国情報標準化機構(National Information Standards Organization/以下,NISO)は,スローン財団からの助成を得てaltmetricsに関する2年間の研究開発プロジェクトを開始すると発表しました(2013年6月)。
DORAやNISOといい,欧米のaltmetricsに対する取り組みの真剣さ・本気度が伺える動向は今後もますます活発化することでしょう.

OAとaltmetricsの関係

ブダペストオープンアクセス運動(Budapest Open Access Initiative/以下,BOAI)は,2002年にOAに関する宣言を公開すると同時に始まった運動で,OAを定義し,OA実現のための2つの方策(セルフアーカイブ・OA誌)を提唱しました.2012年2月で10周年を迎えたBOAIは,これからの10年に向けた指針を示す提言(BOAI10)を発表したのですが,その文中には「インパクトファクターによる雑誌・論文・研究者の評価に対する批判とそれに替わる新たな指標(“alternative metrics”,いわゆるaltmetrics)の開発を奨励する」といった altmetrics に関わる文言が幾つか記載されています.[4]
OAが進展する最中,2007年前後に今や私たちにとって欠かせない存在になりつつあるソーシャルメディア(TwitterやFacebook は勿論,CiteULikeMendeleyなどの研究者向けサービス)が次々と産声をあげました.こうしたソーシャルメディア時代到来に応じて,研究者の活動はオンライン上へとシフトしてきます.Jasonらによると,研究者の4人に1人はTwitterを研究活動に利用しているといい, [5] ソーシャルメディアが研究活動に与える影響が着目され始めました.そんな折,「Tweetは引用を予測できるか?」という研究論文が発表されます.[6] その研究では,「Tweetは論文発表後3日以内に高被引用論文を予測できる」という結論が導き出され,altmetricsは伝統的な研究評価指標を補完する価値があるとして期待と注目が増し,学術関係者にとっては無視できない存在となってきました.
また文献管理サービスMendeleyは,今や250万人を超える世界中の研究者が利用し,約4億6千万件の文献情報がユーザ間で共有される程に成長しています.Mendeleyのreadership(Mendeleyに登録されている文献情報を,どれだけのMendeleyユーザがブックマークしているか,を表す指標)は,伝統的な被引用数に影響を及ぼすことが研究によって明らかになりつつあり, [7] 今やMendeleyはaltmetricsサービスに欠かせない重要な要素として捉えられています.
BOAIが定義されたウェブ時代には,この様なソーシャルメディアの台頭とその影響力は予測できなかったことでしょう.時代の進化にあわせて「altmetricsの開発を奨励する」と加えられたBOAI10には,altmetricsによってOA自体も進化していくのだという期待が込められていると言えるでしょう.

IR担当者に期待されるaltmetrics対応

研究者は自身の研究成果のaltmetricsに関心を高め,学術出版社はこぞってaltmetrics対応を進めてきました.では,図書館員とりわけIR担当者としてはどの様にaltmetricsと向かい合い,対応することが出来るでしょうか.
先ず,前述した学術出版社の取り組みを参考に,「IRにaltmetricsサービスを導入する」という考え方を思い描くことができます.第8回オープンリポジトリ国際会議(OR2013)では,DSpaceへの Altmetricドーナツ実装について議論が交わされた様です.国内にはDSpace利用機関が多いので嬉しい話です.NII共用リポジトリサービスJAIRO Cloudにも altmetricsサービスが標準装備されれば,我が国は一夜にして?!altmetrics対応IR 実績ナンバーワンになることも可能になります.技術的・予算的障壁は殆どないといって過言ではありません.むしろ,altmetricsの必要性・重要性を周囲に理解してもらうアドボカシー活動こそが,IR担当者に期待されるところでしょう.今年のOAWeekを機にOA・altmetrics双方への理解を深めるアドボカシー活動をスタートできれば,今後10年のOAはより一層加速していくのではと期待が高まります.

おわりに

図書館員は,altmetricsにとってキープレイヤーである

米国の大学・研究図書館協会(ACRL)が刊行する情報誌に”Riding the crest of the altmetrics wave: How librarians can help prepare faculty for the next generation of research impact metrics”と題した記事が掲載され,ユサコニュース2013年第240号に詳細な解説記事「新たな論文評価指標Altmetrics: 図書館員が利用者に対して行うべき支援」が紹介されるなど,IR担当者でなくとも図書館員の方々にとってaltmetricsは身近なキーワードになりつつあります.研究者にとって身近で信頼のおける図書館員の方々は,研究者のaltmetrics支援を担う役割・存在として期待が高まってきています.
本稿をきっかけにaltmetricsへの理解を深めて頂き,我が国におけるaltmetricsの在り方について図書館員みなさんと一緒に考えていくことができれば幸いです.

参考文献

[1] Priem, J.; Taraborelli, D.; Groth, P.; Neylon, C. altmetrics: a manifesto, (v.1.0). 2010-10-26.
[2] 坂東 慶太.Altmetrics の可能性 ソーシャルメディアを活用した研究評価指標.情報管理.2012, vol. 55, no. 9, p. 638-646.
[3] 林和弘 (2013)「研究論文の影響度を測定する新しい動き- 論文単位で即時かつ多面的な測定を可能とするAltmetrics -」『科学技術動向』(2013年3・4月号) . 科学技術政策研究所
[4] 佐藤翔, E1360 – ブダペストオープンアクセス運動が次の10年に向けた提言 | カレントアウェアネス・ポータル
[5] Prevalence and use of Twitter among scholars. Jason Priem, Kaitlin Costello, Tyler Dzuba.
[6] Eysenbach, G. Can Tweets Predict Citations? Metrics of Social Impact Based on Twitter and Correlation with Traditional Metrics of Scientific Impact. Journal of Medical Internet Research. 2011, vol. 13, no. 4, e123.
[7] Xuemei Li, Mike Thelwall, Dean Giustini. Validating online reference managers for scholarly impact measurement. Scientometrics. May 2012, Volume 91, Issue 2, pp 461-471

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